29.9.14

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横浜トリエンナーレ2014

新港ピア会場 第11話  忘却の海に漂う 
アクラム・ザタリ 「彼女に+彼に」(2001年 映像作品)

Shinko Pier Exhibition Hall Chapter 11  Drifting in a Sea of Oblivion

Akram ZAATARI   Her +Him (2001 Film Screening)

 
 
老人を訪ね来た若者は
錆びた時の鍵を持ち 記憶の扉を開けに行く
 
亡くなった友人の祖母の写真
二十歳になったばかりのポートレート
まだ見知らぬ写真家の住む街に
訪ね行った日の記憶
 
必然は偶然の名を借りて
見知らぬ土地にひとを誘う
 
若者はエジプトの街へと導かれ
見知らぬ男を訪ね会う
 
失せた記憶は怪訝さを  顔の皺に刻み込む
ひとたび記憶の風が吹き込まれ 
時間は瞬間 過去に遡る
 
話す毎に鮮明に 薄れていた記憶は蘇り
老人は 女が訪ね来た日の心を巻き戻す
 
「写真を撮って欲しい」
そう言って 突然現れた少女の口元には赤い紅
二十歳になったばかり 無理して爪先立てて背伸びする
 
熟れた肌 恥じらう笑み
撮る男の瞳もまた潤み
時代という名のネガで刻み撮る
 
老人は 何かがあったと仄めかす
写真の中 少女は女の顔になる
 
男は 何かがあったと仄めかす
関係を持ったと自慢げに
だから撮ったと仄めかす
 
女の笑みは誘うよに
それは若者より遙かに若く
母も父も ましてや友人の存在さえも
まだない過去に
 
古い写真と昔語り
忘却と記憶の息遣いが包み込む
 
老人は過去に向かう旅
若者は未来につながる旅
 
時間の歪の隙間から ひと筋光が差し込んで
忘却は今 未来の記憶になる
 
 
写真の中 少女は女の顔になり
艶かしく微笑み来る
 
《ミテ・・・ワタシキレイデショウ?》
 
忘却の彼方から 女が誘い来る
 
 

 
[文:新城 順子]





11.9.14

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横浜トリエンナーレ2014



捨て去るという行為

排除するという行為

意識して捨てるという行為


捨て去られたもの

捨てられたもの

意識せずに廃棄されたものへの記憶は薄れるもの

それは道端に捨てられた吸殻のように

意識して捨て去った記憶は決して消えることはなく

それは愛する何かとの別離の記憶のように


外部からの圧力によって排除されたもの

内的意識から排除せざるを得なかったもの

さまざまな忘却が渦巻く この国の

ここは横浜という港のある街

海の向こう側に開かれたこの場所で

忘れてはいけないことを記憶する

きっかけ

それが芸術という見せ方で

人々に問い掛ける

 
 [文:新城 順子]